年末年始を日本で過ごし、帰仏後もあちこち旅行していて、ようやく家に落ち着いたのが3月1日。そろそろフランスでも自国のCOVID-19感染を心配をする声が聞こえ始めていたが、実際に生活上で警戒している様子はほとんどなかった。私自身は、2月の旅行先で後から後から感染者が出たので、これは危ないかも、と心配になり毎日検温したりして、何の症状も無いのだけれど、それでも不安は拭えないでいた。友人は平均年齢70歳くらいだから、自分というより周囲が心配だった。でも皆どこ吹く風。この余裕、どこからくるんだろう。習い事も参加者は減っていたけどまだ続いていたし、3月12日時点でのピラティス教室に至っては満員。「窓を開けた方が…」と進言してみたが、「気になる人いる〜?」誰もいなくて寒いから閉めたままで、ってことになったりして。「弱気になるな」的な空気の方が強かった。
そこからわずか数日で急に政府やメディアが警鐘を鳴らしたて、学校の休止、追って外出自粛の沙汰が立て続けに施行された。そのスピードの早さに「すごいな〜」と思っていたところに、自粛に対抗するように「友達の家でワッフル焼くから集まろう!」という気楽なお誘い。さすがに挨拶のビズ(キス)と握手は誰もやらなくなっていたけど、食卓でワッフル焼きながら、スプーン共有でジャムとか蜂蜜とかつけて食べて、誰かが感染してたら絶対アウトだな、という状況だった。「目に見えないリスクよりも、友情と交流を失いたく無い」「テレビや政府は大げさで、広がりつつはあるがまだ自分たちは大丈夫だ」と声の大きい人が言う。内心は不安、と言う友人もいた。この時点(3月15日)あたりが今(3月下旬)の東京なのではないかと思う。
そして翌日に外出自粛が実質上の外出禁止になって、生活必需品の買出し、通院・薬局、1時間・半径1km以内の運動(散歩)に、外出日時を記載した証明書を持参することが義務付けられた。私の場合、スーパーの買い物は、ネットで注文しておいて、車でピックアップに行く。トランクを開けると、お店の人が全部入れてくれて、車を降りずに済ませることもできて便利。人との接触も売り場で人が触ったものを買う心配もないので、これなら安心。ニュースを見る限りでは、通常スーパー前に1mの間隔を空けた列が出来ていて、店内も人数制限と保護カバー等で物々しい警戒をしているらしい。店外でも結構細かく取り締まっているようで、スーパーでコーラとお菓子を買って帰るおばさんが、警察から注意を受けたりしている。生活必需品じゃ無いってことなのかな。まだまだ離れた公園や河辺でジョギングしたり、違反外出が後を絶たず、対抗策として罰金も日に日に高額に設定変更されていった。
突発的な緊急事態なのに、次から次へと対応策を打ち出してくるフランス政府の機動力はなかなか凄い。民間の対応も細かなアイデアで色々と防御を徹底しているな、と感心しつつも、感染者と死者数の増加が止まらない。そうした中、医療関係者を気遣うメッセージ投稿や自宅内から外に向かって称賛の声が飛び交う辺りも、フランス人らしい。とにかく声を掛け合うのだ。
現時点で、さらに2週間の外出禁止と休校措置の延長が決まっており、大方の予想で解除は5月下旬以降になるのではないか、となっている。目下の注目は「クロロキン」。マルセイユ大学の教授が治療の有効性を発表しており、とにかく危険性がなく回復可能性があるなら、他に方法も無い訳だし、藁にもすがろうと言う流れである。議論を巻き起こしながらも早々に認可されたようなので、目下治療中の多くの人が救われることを期待したい。
一方で待機しているだけの人には、とにかく時間だけはある。室内での運動やこの機に庭仕事や家の修理など、日頃手をつけられなかったことをやろう、と言う前向きな過ごし方の紹介も多くされている。私はと言うと、フランス語の先生(ボランティア)が授業をSkypで続けてくれてることになった。自宅で一人で独学してても、どうにも進歩しないからこれは有難い。運動不足も心配で、2月の平均歩数8000/日が3月2500歩に激減。1時間外出できるけど、ついつい億劫になるし、飲食を控えめにしようと思っても、家にいるとついついねぇ。
ところで気になる日欧の感染拡大の差について、メディアでも取り沙汰されているとおり、やはり生活習慣における衛生観念の違いが一番大きいだろう。そして、私はもう一つの基礎的な要因として「言語」があるのではないかと思う。フランス語の発音練習で苦労するのは「息を外に強く吐く」発音が多いこと。F、V、P、Bの子音に加え、主力の母音達も、日本語と比べてとにかく「発する」力が強い。感情を込めて話すので口の動きも大きいし、破裂音で唾を飛ばして、長々としかも至近距離で喋る。これって人人感染では弱点なんじゃないかな。日本人は言語の特性と大人しい話し方で口からの飛沫が少なくて、距離もある程度はとるし、その上、手洗い・消毒が行き届いている。鬼に金棒ってほどじゃ無いけど、疫病対策としては意味がありそう。
最後に、私の生活や周囲はまだまだ穏やかで冷静だけど、フランス各地では毎日悲報が溢れている。恐れではなく、現実だ。日本と違って、テレビのニュース等で生々しい病院内の治療の様子などが目の当たりにされている。患者や家族、治療にあたる医師や看護師たちのインタビューなども積極的に流れていて、持病の無い昨日まで全く健康だったという人達が、隔離され家族に看取られることなく亡くなっていく。恐ろしく、悲しい。日本もこれが明日の現実と思ってどうか気構えを緩めぬように、このまま抑制に成功することを願っています。